妊娠中に『喘息治療薬』を使っていいか迷っているママへ

ある日、1人の女性が『お薬相談室』に来ました。

 

長いあいだ喘息治療をしているんですけど、今は安定しています。

 

妊娠したので、赤ちゃんに悪い影響があるといけないから一時的にやめようと思ってたんです。

 

だけど、先生から「吸入薬は続けてください」といわれました。

 

もし、お薬止めたらどうなるんですか。。。?


 

くわしい解説はあとでお話しますが、喘息治療は妊娠中も続けてください!

 

吸入薬を続けることによる赤ちゃんへの影響はほとんどありません。それよりも、赤ちゃんにとって、ママが喘息発作を起こしたときの影響の方が大きいです。


 

 

妊娠中の『喘息治療薬』をズバッと解説!

咳をする女性

喘息をもつ妊婦ママの喘息コントロールはとっても大切です。普段は喘息を起こさないように薬でコントロールしていますが、妊娠期になると3分の1の妊婦ママは悪化してしまいます。これはホルモンの影響もありますが、実は悪化の原因の多くは『妊娠しているから心配』という理由で薬物治療を中断したり、減薬してしまうからなんです。

 

その不安はよーくわかります・・・でも、キケンです!

 

妊娠中に喘息治療薬を使用したことで先天異常の発生率が増加したとの報告はないです。むしろ喘息の悪化が妊娠に大きな影響を与えることがわかっています。
だから妊婦ママは『喘息治療薬』を安心して正しく使用してください。

 

 

原則、『喘息治療薬』は2種類の薬剤でコントロールします。

  • 長期基本治療『吸入ステロイド薬』
  • 発作治療『吸入気管支拡張薬』

では、さっそく『喘息薬の安全性』をズバッと確認しましょう。

ホルモンの影響
妊娠中に喘息を悪化させる因子としてはプロゲステロン、アルドステロンなどが糖質コルチコイドの受容体に競合阻害として働く場合やプロスタグランジンF2αによる気管支収縮作用、妊娠中のストレスの増加などが推定されています。

喘息コントロールが悪いと赤ちゃんへの悪い影響が大きくなります。

ママの喘息が赤ちゃんにどんな影響が出るか確認してみましょう

とはいえ、妊婦ママが喘息治療の必要性を感じなければ薬への不安から治療を中断しちゃうかもしれないので、まずは喘息コントロールの「大切さ」からズバッと確認してみましょう。

 

喘息がおなかの赤ちゃんにどれくらい影響するか妊婦ママには知っていてほしいです。

 

喘息発作により低酸素血症や妊娠高血圧症候群などが発生しやすくなります。これにより、早産・流産・胎児発育不全・低出生体重児・脳障害などの発生リスクが高まります。

 

表1 喘息が妊娠に及ぼす影響(オッズ比)

イベント 全喘息症例 重症喘息症例
早産 1.15 1.56
周産期死亡 1.21 1.28
低出生体重児 1.21 1.98
妊娠高血圧症候群 1.51 1.42

Kallen B et al.:Asthma during pregnancy--a population based study. Eur J Epideemiol, 16:167-171,2000.

 

表について少し解説しますね。例えば喘息のない妊婦ママが”低出生体重児”を産む割合を「1」とすると、喘息のある妊婦ママが「低出生体重児を産む割合は1.21倍になります。さらに喘息コントロールがうまくいかず重症化したときは1.98倍になってしまいます。

 

この表からわかるように、妊娠時の喘息コントロールは非常に重要なことなんですね。

 

妊娠高血圧症候群
妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併によるものでない。
妊婦ママの病気ですが、この記事は「赤ちゃん」を中心に解説していますので、胎児の影響のみ触れます。

 

喘息治療薬『吸入ステロイド薬』の安全性を確認します。

吸入ステロイド薬『ブデソニド(商品名:パルミコート)』

妊娠期のステロイド吸入薬『ブデソニド』に関する情報は多い。『ブデソニド』を使用している妊婦ママの赤ちゃん6,600には先天奇形やその他の有害な影響は出ませんでした。(*1)

 

もう一つの情報はスウェーデンの出生データベースによると『ブテソニド』を使用した妊娠2,014人のうち75人(3.8%)に先天異常が認められたが、この数値はベースラインリスクを超えていません。(*2)

 

調査データから吸入ステロイド薬『ブデソニド』は妊婦ママの喘息治療薬に安全につかえる薬といえますね。

 

(*1)Gluck PA et al.:A review of pregnancy outcomes after exposure to orally inhaled or intranasal bubesonidw.Curr Med Res Opin,21:1075-1084,2005.
(*2)Kallen B et al.:Congenital malformations after the use of inhaled budesonide in early pregnancy. Obstet Genecol,93(3):392-395,1999.

ベースラインリスク
「薬を使っていないカップル」でも2~5%の頻度でおきてしまう形態異常のことを「ベースラインリスク」とよびます。つまり「妊娠出産」にはもともと2~5%の先天的なリスクがあるんですね。

 

吸入ステロイド薬『フルチカゾン(商品名:フルタイド)』

『フルチカゾン』の妊娠時のデータは少ないです。でも全くないわけではないので検討してみようと思います。
『フルチカゾン』を含む吸入ステロイドを使用していた妊婦ママ396人の赤ちゃんの体重と喘息のない妊婦ママから出生した赤ちゃんの体重を比較したところ「低出生体重児」の発生率には差はなかったとの報告があります。これは、妊娠時に喘息治療にステロイド薬を使い喘息コントロールを行ったことが有益だったことを意味しています。

 

そもそも『ブデソニド』『フルチカゾン』は胎盤を通過するの?!

どちらのステロイド薬も脂溶性のため胎盤を通過するでしょう。ただ、その量はごくわずかなので赤ちゃんには影響ない量です。

 

表2 バイオアベイラビリティとたんぱく質結合

薬品名 ブデソニド フルチカゾン
バイオアベイラビリティ 40% 16.6%
たんぱく質結合率 90% 95%

 

『ブデソニド』を吸入薬として使用した場合、吸入により体内入った薬のおち40%が血液に入りますが、その90%が蛋白と結合して胎盤を通過しにくい状態なっています。

 

『フルチカゾン』を吸入薬として使用した場合、吸入により体内入った薬のおち16.6%が血液に入りますが、その95%が蛋白と結合して胎盤を通過しにくい状態なっています。
いずれも直接的な根拠とはなりませんが、くすりの特徴から胎盤を通過しにくいことがわかっています。

 

また次のような実験で吸入ステロイドの安全性が調査されています。

 

副腎は必要以上のステロイドが一定期間、体内に入ると「副腎の機能が低下する」ことがわかっています。もし妊婦ママの吸入ステロイド薬が長期管理のため一定期間、必要以上のステロイドが胎盤を通過していたら、赤ちゃんの「腎機能は低下する」はずなんですが、

”妊娠中の吸入ステロイド薬使用患者における母体と胎児のホルモン濃度を検討した研究によると、胎児の副腎機能には影響はなかった”

との報告があります。
Hodlyl NA,et al.:Fetal Glucocorticoid-regulated Pathways Are Not Affected by Inhaled Corticosteroid Use for Asthma during Pregnancy.Am J Respir Crit Care Med,183(6):716-722,2011.

これは吸入ステロイド薬が胎盤をほとんど通過しないとの間接的な根拠といえるそうですね。

 

 

ステロイド薬のデータ載せますので参考にしてください。

薬品名 ブデソニド フルチカゾンプロピオン酸エステル
分子量 430 500
投与経路 吸入 吸入
分配係数 540「[脂溶性] 15.1[脂溶性]
酸塩基性 ― (pKa 13.74) ― (pKa 13.56)
たんぱく質結合率 85~90% 81~95%
代謝活性 なし なし
半減期 2.8時間 7.8時間
M/P 比 0.50
RID 0.3%

 

喘息発作治療薬『吸気管支拡張薬』の安全性を確認します。
短期間作用薬『プロカテロール(商品名:メプチン)』『サルブタロール(商品名:サルタノール)』の安全性を確認

『プロテカロール』『サルブタロール』はどちらも水溶性のため胎盤への移行はほとんどないです。

 

実際、『プロテカロール』のバイオアベイラビリティは不明ですが、胎盤移行率は3%に過ぎません。
一方、『サルブタロール』のバイオアベイラビリティは2.3%、胎盤移行率は10%で妊婦ママが吸入した薬の0.23%しか胎盤に移りません。

 

短期間作用タイプの気管支拡張薬のデータ載せますので参考にしてください。

薬品名 プロカテロール サルブタロール
分子量 336 577
投与経路 吸入(短期間作用型) 吸入(短期間作用型)
分配係数 0.236「[水溶性] 0.007[水溶性]
酸塩基性 塩基性 (pKa 7.35) 塩基性 (記載なし)
たんぱく質結合率 14.3~15.8% 6~8%
代謝活性 なし なし
半減期 3.8時間(経口薬の場合) 3.8時間

 

まとめ

安心した妊娠イラスト

妊娠中の喘息のコントロールは子宮内の状態を安定させるためには必須な治療です。赤ちゃんの発育と正常期分娩のためにもしっかりと喘息コントロールしてください。お願いしますね。またママの高血圧予防のためにも喘息コントロールを心がけてくださいね。

 

 

 

 

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